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大阪地方裁判所 昭和43年(ワ)6011号 判決

原告

遠藤万知子

被告

岐運送株式会社

主文

被告は原告に対し金一、三八二、四六〇円及び内金六二二、三五〇円に対する昭和四三年一〇月二九日から内金六二〇、一一〇円に対する昭和四五年一一月一一日からそれぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は二分しその一を原告の負担としその余を被告の負担とする。

この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

但し被告が金八五万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対し金三、三六一、三七〇円及び内金一、八三七、八二〇円に対する昭和四三年一〇月二九日から内金一、三二三、五五〇円に対する昭和四五年一一月一一日からそれぞれ支払済まで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする、との判決及び仮執行の宣言を求め、

その請求の原因として

一、原告は左の交通事故により後記のとおりの傷害を受けた。

とき 昭和四二年七月一三日午前一時三〇分頃

ところ 大阪市阿倍野区阿倍野橋一丁目一番地先路上

事故車 貨物自動車(香一い第一一一六号)

訴外日下隆運転

被害車 乗用自動車(大阪五ひ第四三八〇号)

訴外大福馨運転 原告同乗

事故の態様 信号に従つて停車中の被害車に事故車が追突

二、被告は事故車を保有し、自己の営む貨物自動車運送業のため使用しているものであつて、右の事故は事故車がその業務従事中惹起されたものであるから自動車損害賠償保障法(以下自賠法という)第三条により原告の損害を賠償する責任がある。

三、原告は右の事故により頸椎捻挫、頸腕症候群の傷害を受け、入院三二日間その後長期の通院治療を受けたが、完治せず、頸腕しびれ、耳鳴、疼痛等の後遺症状を残しており、これらによつて左のとおりの損害を蒙つた。

(一)  治療費(昭和四三年七月一〇日までの分)一三七、八二〇円

入院料九二、〇〇〇円、治療費、雑費四五、八二〇円を要した。

(二)  同(その後の分) 二三、五五〇円

(三)  得べかりし利益の喪失

(昭和四三年七月一〇日までの分) 一五〇万円

(その後の分) 一〇〇万円

原告は事故当時クラブ「八番館」のホステスとして勤務し、日収少くとも七、〇〇〇円(月収にして少くとも二〇万円)を挙げていたが、本件受傷、治療並びに後遺症状のため就業不能となり、昭和四三年九月頃、一時クラブ「田毎」の雇われマダムをしたけれども一ケ月余の後である同年一〇月一〇日頃これも退職し現在に至つているので、この間の得べかりし利益は

(昭和四三年七月一〇日までの分) 二〇〇万円

(その後の分) 五二〇万円

をそれぞれ下廻ることはないとみるべきであつて、原告はこのうち前記の金額を内金請求する。

(四)  慰藉料 五〇万円

固定客を失い、前記のとおり他の職に転じても思わしくないなどの事情にあり、前記各事実を併せると慰藉料としては少くとも五〇万円が相当であり、当初の請求二〇万円及び請求拡張三〇万円の合計額を請求する。

(五)  弁護士費用(当初請求) 二〇万円

着手金五万円、報酬一五万円を要する。

以上合計三、三六一、三七〇円

(このうち当初請求分) 二、〇三七、八二〇円

(請求拡張分) 一、三二三、五五〇円

四、そこで被告に対し右合計額及び当初請求額に対する昭和四三年一〇月二九日(本訴状送達の翌日)から、内金一、三二三、五五〇円(請求拡張分)に対する昭和四五年一一月一一日(請求拡張の申立書送達の翌日)からそれぞれ支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金(但し弁護士費用に対する分は請求しないのでこれを除く)の支払を求めるため本訴に及ぶ。

被告出張事実のうち治療費として白壁病院の費用、休業補償として二二万円、自賠保険金一〇万円を受領していることは認めるが、右金額を上廻る支払をしているとの点は否認する。

と述べ、

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、その答弁として

一、請求の原因第一項の事実は認める。但し本件事故は被害車右側面と事故車左後部が接触したものであつて追突ではない。

二、同第二項の事実は認める。

三、同第三項の事実は全部強く争う。

被告の主張として

一、被告は原告に対し治療費として金一三四、三六〇円、休業補償として金二七万円、自賠保険金より金一〇万円を支払つている。

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

請求の原因第一項(但し事故の態様を除く)、第二項の事実は争いがなく、〔証拠略〕に徴し事故の態様はほゞ原告の主張するとおり認められ、これらによれば被告は自賠法第三条により原告の損害を賠償すべき義務があるものといわなければならない。

そこで損害について考えるのに、〔証拠略〕を綜合すれば、

原告は、右の事故によりその主張のとおりの傷病名の傷害を負い、自昭和四二年七月一三日至九月二六日

{三二日入院 六日通院 (白壁病院)

治療の他その後山上医院、大阪大学附属病院、くさか医院で各通院治療を受け、昭和四五年九月一〇日までこれを続けた(但し昭和四三年以後においては診療実日数は比較的少なくなつており、なお後記参照)が、なお完治に至らず頑固な偏頭痛、左顔面神経麻痺、後頭部疼痛、しびれ感、軽度腫張感、右上肢各同症状、(なおし線検査で頸椎第四、第五位頭部後屈位でずれが認められている)等の後遺症状(自賠法施行令別表第一二級該当、なお諸般の状況に照し右の固定時期は受傷後約一ケ年間後と認めることが相当である)を残し、これらによって蒙った損害額は左のとおりであつたこと(以下においては被告に負担せしむべき相当性、必要性の範囲内の額に関する評価判断をも併せ加えることとする)、

(一)  治療費(昭和四三年七月一〇日までの分)

被告支払の白壁病院分 一二六、九一〇円

その他の分 二二、三五〇円

但し、右のその他の分の中には入院雑費(交通費を含む)三、六七〇円を含む。

(二)  同(その後の分) 二三、五五〇円

(三)  得べかりし利益の喪失

(昭和四三年七月一〇日までの分 七二万円

(その後の分) 一九六、五六〇円

原告はその主張のとおりの職業(当時二二才)に就き、日収として少くとも六、〇〇〇円前後(事故当時日給七、〇〇〇円であつたが、前歴に対比すると職場の定着もかなり不安定であつてその後の日給六、〇〇〇円の例=クラブ「華壇」もあり、事故前のクラブ「花扇」、クラブ「小林」当時の日収と対比してもこの程度と認めることが相当である。)を挙げ、就労日数は一ケ月一五乃至二〇日前後、衣裳代、通勤費用その他の経費として収入の約四割を要するものと認められ、結局これらによる純収入として少くとも月額六万円を得べきであつたと認められるから、前記症状固定時期まではその全額、その後の三年間少くともその一割相当額を失い、これを計算すれば、

六万円×一二=七二万円 及び

七二万円×〇・一×二・七三=一九六、五六〇円

となる。

(四)  慰藉料 六〇万円

前掲各事情、特に受傷内容部位程度、入通院治療の経過、後遺症状(就中未婚の女性である原告にとつて顔面神経麻痺は影響が大きい)その他証拠により認められる諸般の事情を綜合すれば、原告の蒙つた精神的肉体的苦痛を癒すには慰藉料として金六〇万円とすることが相当である。

(当初請求分) 二〇万円

(請求拡張分) 四〇万円

(五)  弁護士費用(当初請求) 一四万円

以上の経緯、事案の難易、請求額、認容額その他諸般の事情に照し原告の要する弁護士費用二〇万円のうち被告に負担せしむべき相当の範囲内の額は金一四万円とすべきものと認める。

以上合計一、八二九、三七〇円

(このうち当初請求分)一、二〇九、二六〇円

(請求拡張分) 六二〇、一一〇円

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

そしてこれに対し治療費、休業補償、自賠保険金として合計四四六、九一〇円が支払済であることは当事者間に争いがなく(いずれも当初請求分に充当されるべきもの)、その余の被告主張を認めるに足る十分な証拠はなく(治療費の差額七千余円は仮に支払つたことが事実としても恐らく原告の本訴請求外のものと推認せられ、また休業補償の差額五万円についてはこれに副うかの如き被告代表者供述もあるが、数回以上に亘つて支払われたその余の分についてはすべて領収書が存するにも拘らずこの分についてのみは存しないなど不自然、不合理な面もあり直ちには右供述も採用し難い実情にある)、結局被告は右支払済額を控除した残額及びこれに対する原告の主張の趣旨のとおりの遅延損害金を支払うべき義務を負うものというべく、原告の本訴請求は右の限度で理由があるのでこれを認容しその余を失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行及びその免脱の宣言について同法第一九六条を適用し、よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本嘉弘)

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